LL論文

昨日のSSLA論文に引き続き、今回はLanguage Learning誌に掲載された以下の論文の紹介&裏話です。

Murakami, A. (2016). Modeling systematicity and individuality in nonlinear second language development: The case of English grammatical morphemes. Language Learning. Advance online publication. doi: 10.1111/lang.12166 [リンクプレプリント] [データやRコード]

本論文は一般化線形混合効果モデル(GLMM)と一般化加法混合モデル(GAMM)を第二言語習得研究者コミュニティーに紹介することを目的としています。SSLA論文同様、本論文も博士論文の章が基になっているのですが、実はこの分析を行うことに決めたのは、博士課程の三年目が終わり、いわゆるwrite-up periodに入る直前(2012年12月)でした。「材料はあるのでとりあえず博士論文のドラフトを書く」というのがクリスマス休暇中の課題だったのですが、書いている内にこの分析を足した方が良い気がして足早に分析を行い、当初は別の章の一部でしたが後ほど一つの章として独立させました。

博士論文の章が基になっているものの、本ジャーナル論文はそこから大幅に変更を加えています。実は博士論文ではGAMMは用いていません。行いたかったモデル比較ができないと思い込んでいたためです。しかしその後に出席したワークショップで当時想定していたようなモデル比較が可能であるということを学び、本論文ではGAMMを用いました。

しかし、そこそこいけるだろうと内心思っていたSSLA論文とは対照的に、この論文がLLに掲載されることは実はほとんど期待していませんでした。LLの2015年の特集号が計量データ分析に関するものでしたが、それ以前に統計手法を中心に据えた論文がLLに掲載された例は近年だと私の知る限りGudmestad et al. (2013)しかなく、この論文もタイトルこそ統計手法の色が強いですが、実際に読んでみると統計以外の内容もしっかりとしている(少なくともそう見える)論文です。つまり私が投稿した2014年時点では統計手法を紹介するという類の論文はLLに掲載されたことがなく、かと言って手法ではなく内容面を中心に据えるにはインパクトが足らないと思っていたので 1、まあ有益なフィードバックがもらえればいいやくらいの気持ちで最初は投稿しました。また当初はmethodological reviewではなくproblem-drivenな研究として投稿しました。上記を鑑み、あまり統計色を前面に押し出さない方が良いのではないかと考えたためです。結果、査読者&Editorに「problem-drivenな実証研究なのか手法面に焦点のある論文なのかはっきりしろ」とフィードバックを受け、なんだ統計手法を中心に据えても良いのかと思い、その後は開き直って統計モデリングを紹介するという主旨の論文に修正しました。それと同時に、それで良いのであれば掲載されるかもしれないとも感じました。

本論文は投稿からオンライン上での掲載まで1年半かかりました。SSLA論文(1年3ヶ月)よりも時間がかかったのは査読が2ラウンドあったためですが、それでもトータルでは割とスムーズに進んだ印象です。1年半の内、8ヶ月ほどはこちらで止めていました。査読者は各ラウンドで3名ずつ(ラウンド2ではラウンド1から1人引き継ぎ)でした。面白かったのが、計5人の査読者の内、2人が記名付きの査読コメントだったことです。話には聞いたことがありましたが、第二言語習得研究分野では珍しいと思います。後日、記名査読だったお二方にお礼のメールをさせて頂いたところ、その内お一人から実験心理学では3-4人の査読者がいれば1-2人は記名であること 2など、色々と面白い話を伺うことができました。

また、査読者の内一名のコメントが専門的ながら非常に的を射たもので、一体どういう方なのだろうかと思いながら読んでいったところ、コメントの最後にお名前を発見しました(上述した記名査読の方の一名)。存じあげない方でしたが、検索すると納得の所属と業績でした。LLでガチガチの統計手法に関するコメントをもらえると思っていなかったこともあって、この査読者を当ててもらえて良かったと感じました。

時系列でジャーナルとの主なやり取りを記すと以下のようになります。

2014年8月4日: 投稿
2014年10月23日: 査読者三人の内、二人がMajor Revision、もう一人がMinor Revisionで総合的にMajor Revision。
2015年1月8日: ほぼ全面的に書き直し(初稿から残ったのは用いたコーパスの説明くらい)、完全に統計モデリングを主眼に据えた論文として修正版を投稿。
2015年1月9日: 「あなたが投稿した114ページに亘る23214語の論文はジャーナル論文ではなくshort monographだ。短くしなさい」という(たいへん真っ当な)指示を受ける。
2015年2月18日: 余剰分の大半をOnline Supporting Informationに移して、他の箇所も削り、なんとか指示された12000語以内に抑えて再投稿。割と長いOnline Supporting Informationが付いているのはこのため。
2015年4月16日: 査読結果の通知。conditional to your satisfying the minor revisions requested in the reviewsでacceptとのこと。前回全面的に書き直していたこともありもう1ラウンドを覚悟していたため、ちょっと拍子けしました。しかし査読者レベルで見ると、Minor Revisionが一人、Acceptが一人、Major Revisionが一人と、結構割れていました。
2015年8月7日: 再度分析からやり直し、修正版を投稿。
2015年9月4日: 「in its current formでacceptする」旨の連絡。
2015年12月3日: Editorからのproofが送られてくる。
2015年12月10日: proofに色々と手を入れて返信。
2016年1月-2月: 出版社(Wiley)よりe-proofが送られてくる→数点修正しe-proofを返信、を3サイクル
2016年2月17日: オンライン上に掲載される

博士論文からは可能であればもう一本ジャーナル論文を出したいと思っています。その部分に関しても予稿集の論文としては出ることが確定しているので、そちらもオンラインに公開され次第、こちらで紹介します。

(追記:2016年11月22日)紙媒体でも公開されたようです

Notes:

  1. 今から考えれば内容面でも勝負する方法はあったと思います
  2. いわゆる「大御所」の研究者ばかりだそうですが
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One thought on “LL論文

  1. Pingback: GLMM/GA(M)Mの文献案内 | Akira Murakami's Website

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