SSLA論文

ブログをお休みしていた二年間の間に、二本ジャーナル論文が出ました。いずれも博士論文を基にしたものです。 今回は昨年の11月にオンラインで公開された下記論文の紹介並びに裏話です。

Murakami, A., & Alexopoulou, T. (2015). L1 influence on the acquisition order of English grammatical morphemes: A learner corpus study. Studies in Second Language Acquisition. Advance online publication. doi:10.1017/S0272263115000352 [リンクプレプリント]

この研究は私が主に博士課程の一年目から二年目の半ば(2010年-2011年夏)にかけて行ったもので、ケンブリッジ学習者コーパスに基づき、英語文法形態素の習得順序における母語の影響を実証的に検証すると共に、文法形態素によって母語の影響の強さが異なることを示した論文です。第二言語習得論の入門レベルの授業で必ず扱われる文法形態素習得順序研究に位置づけられる研究ということもあり、何人もの方が自身の第二言語習得論の授業で課題論文に挙げると仰ってくださっています。

結果自体は現代では特に驚くべきものではありませんが、大規模学習者コーパスを用いて文法形態素の習得順序が母語によって異なることを示したのは一定の意義があると考えています。また、母語の影響の強さが文法形態素によって異なる点も、博士論文(こちら)では別の学習者コーパス(EFCAMDAT)を用いて再現できていますし(Researchセクション参照)、実在する現象を捉えていると思っています。

こちらの連続ツイートにも記しましたが、私が第二言語習得研究を初めて面白いと感じたのは、学部時代に受講した第二言語習得論入門の授業 1でnatural orderについて学んだ時で、博士論文でそれを扱い、否定することになるとは奇縁を感じます。

本SSLA論文ですが、投稿してからオンラインに掲載されるまでトータルで1年3ヶ月かかりました。しかしこちら側が結構止めていて(inhouse evaluationの後と査読後に計6ヶ月)、査読自体は1ラウンドのみで2ヶ月でした。時系列でジャーナルとの主なやり取りを記すと以下のようになります。

2014年7月下旬: 初稿をメールにて投稿
2014年8月6日: Inhouseで見たが査読に回すには問題が多いので、XX等を改善せよ、と当時のEditorからのメールを受信
2015年1月18日: 修正した原稿をメールにて投稿
2015年2月9日: 査読に回す旨の連絡。査読に回れば50%はacceptされるとのこと。
2015年4月8日: Accept pending final revisionsとの通知。
2015年7月18日: 修正版を投稿。
2015年8月6日: LaTeXで書いていたためここまでの投稿は全てPDF形式で行っていたが、ここに来てWord形式で提出してくれということなので、完全手動でWordに移して再提出
2015年9月25日: proofが送られてくる
2015年10月3日: proofに修正が必要な箇所を送信
2015年11月2日: オンライン上に掲載される

見聞きした範囲内では、これは投稿から掲載まで割とスムーズに進んだパターンかと思います。

この研究は博士論文の中では最も手堅い部分なので、それなりのジャーナルに掲載が決まってほっとしました。次回は本論文と平行して進めていたもう一本の論文について書きます。

(追記:2016年9月1日)紙媒体でも公開されたようです。

(追記:2017年3月2日)本論文はSSLAに出版された中でその年に最もoutstandingであった論文に贈られるAlbert Valdman賞を受賞しました(参照)!

Notes:

  1. こちらに一部が公開されています。
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One thought on “SSLA論文

  1. Pingback: Albert Valdman賞 | Akira Murakami's Website

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